認知症による物忘れについて解説します!

再生医療

 認知症の症状として、物忘れは代表的なものです。しかし、人間は誰でも年を取ると物忘れをしやすくなります。物忘れが認知症によるものなのか、それとも年のせいなのかわからず悩んでいる方もいるのではないでしょうか。今回は、認知症で起こる物忘れの特徴や原因、改善方法について解説します。





| 物忘れの症状

 物忘れが起こり始めた最初のうちは、認知症かどうかなかなか判断がつかないこともあるでしょう。しかし、次第に「これはおかしいな」と気づくようになってきます。

認知症で見られる物忘れの特徴

 認知症が原因で起こる物忘れでは、次のような症状が見られやすいことが特徴です。

  • 数分前や数時間前の記憶がない
  • 同じことを何度も聞く
  • ものをよくなくす
  • 家にあるのに何個も同じものを買ってくる
  • 今日の日付や曜日、季節がわからない
  • 外出先で帰り道がわからなくなり迷子になる

 つい先ほどの記憶がないため、認知症の方は同じことを何度もくり返し聞いてきます。繰り返し聞いてもすぐに忘れてしまうため、時には数分おきに10回以上も同じ内容を聞いてくることもあるでしょう。ものをどこに仕舞ったのかも忘れてしまうため、しょっちゅう探しものをしています。自分がなくしたのに「誰かに盗られた」と、もの盗られ妄想が出る方も少なくありません。

 日付や曜日、季節がわからなくなるほか、昼と夜の区別がつかず夜中に出かけたり誰かに電話したりすることもあります。出かけたまま帰り道がわからなくなり、迷子になるのはよくあることです。

認知症による物忘れと老化による物忘れの違い

認知症による物忘れ老化による物忘れ
自覚物忘れをしている自覚がない物忘れをしている自覚がある
物忘れの範囲体験したことそのものを忘れる体験したことの一部を忘れる
もの盗られ妄想の有無なくしたものは誰かに盗られたと思うなくしたものは探して見つけ出そうとする
日常生活への支障鍋に火をつけっぱなしだったり外出先で迷子になったりなど支障が出る支障はとくに出ない
学習能力新しいことを覚えられない新しいことも覚えられる

 認知症の方は、体験したことそのものを忘れてしまうためご飯を食べた後にも「ご飯はまだ?」と聞いてきます。一方で老化による物忘れの場合は、何を食べたのかを思い出せないことはあっても、ご飯を食べたこと自体は忘れません。

 このほか、認知症では次のような症状が見られることもあります。

  • 文字を書けなくなる
  • 使い慣れた道具の扱いに戸惑う
  • 失禁が増える
  • 怒りっぽくなる
  • うつ症状が出る
  • ないはずのものが見えると主張する

 また認知症は症状が徐々に進行していくため、少しずつ物忘れの度合いがひどくなっていくことが特徴です。


| 物忘れの原因

 認知症の原因にはいろいろなものがあります。ここでは代表的なものについて見ていきましょう。

アルツハイマー型認知症

 認知症になる原因の約7割は、アルツハイマー型認知症 です。アミロイドβというタンパク質の蓄積と神経原線維変化によって引き起こされます。思考や判断力、言語処理などを行っている大脳皮質や、記憶に関わる海馬などで情報伝達に必要なシナプスが減少することが原因です。記憶や認知機能を保つアセチルコリンが低下していることもわかっています。末期になると寝たきりになることもあるため、 早期から治療を行うことが大切です。

血管性認知症

 血管性認知症は、脳梗塞や脳出血など、脳血管の病気が発端となり起こる認知症です。脳のどの分野に障害が出ているかによって現れる症状は異なります。アルツハイマー型認知症を合併しているケースも少なくありません。 血管性認知症は高血圧や脂質異常症など生活習慣病が大きく関係しているため、予防のためにも 食生活や運動習慣などの見直しが大切です。

レビー小体型認知症

 レビー小体型認知症は、レビー小体というタンパク質が大脳皮質にたまることで起こります。アルツハイマー型認知症に次いで多いとされる認知症です。レビー小体の影響で神経細胞の数が減っていき、物忘れをはじめ幻覚や妄想、うつ症状や睡眠時の異常行動などが見られます。

 レビー小体は自律神経にも影響を与えるため、排尿障害や起立性低血圧、便秘や発汗障害などの症状が見られやすいことも特徴です。

前頭側頭型認知症

 前頭側頭型認知症は、神経細胞が変性したり数が減ったりすることで起こります。症状としては万引きをしたり相手への配慮ができなくなったり、自発的な発語が少なくなったりなどが代表的です。

 タウ蛋白やTDP-43などのタンパク質が神経細胞などに蓄積することが原因で起こります。70歳以上で発症することは少なく、 50代頃から発症することが多いです。

 働き盛りの年齢で発症することが多いため、ご本人が認知症だと認められないケースもよく見られます。


| 物忘れの改善方法

 認知症が原因で起こる物忘れには、改善できるものと改善が難しいものとがあります。治療により改善ができる認知症は、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症など限られたもののみです。認知症を引き起こす原因となる元の疾患を治療することで、物忘れの症状も改善できます。

 しかし、上で紹介したようなアルツハイマー型認知症や血管性認知症などは、今のところ根本的に治療する方法がありません。そのためここでは、改善方法ではなく一般的な治療方法について紹介します。

アルツハイマー型認知症の治療方法

 アルツハイマー型認知症では、ドネペジルやリバスチグミンなどの コリンエステラーゼ阻害薬を使う方法が一般的です。記憶や認知機能に関わるアセチルコリンの分解を阻害することで、症状の進行を遅らせます。

 中等度から重度の患者さんには、神経障害を抑える メマンチンが有効です。リハビリテーションや心理療法など薬を使わない治療もあります。

血管性認知症の治療方法

 脳梗塞や脳出血などの影響を受けた脳の細胞を完全に元に戻す方法はありません。そのため血管性認知症の場合は、再発を予防するための治療が行われます。

 脳梗塞や脳出血などの原因となりやすい高血圧や脂質異常症などの治療を行ったり、血液をサラサラにするワルファリンなどを使ったりすることが多いでしょう。

レビー小体型認知症の治療方法

 レビー小体型認知症そのものを改善する方法はありません。そのため、認知症に伴って出現している症状に対応する治療を行うことが基本です。

 アルツハイマー型認知症と同じく、コリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンなどが有効だとされています。幻覚や妄想のきっかけとなる出来事がわかっている場合は、それらを取り除くことも大切です。

前頭側頭型認知症

 前頭側頭型認知症にも残念ながら根本的な治療方法はありません。有効な治療薬もあまり見つかっていない状況ですが、現在のところ 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)という抗うつ薬の使用が推奨されています。


| まとめ

 認知症による物忘れでは、数分前の記憶がなかったり同じことを何度もくり返したりするなどの症状が見られます。物忘れをしている自覚がなく、時間の経過とともに症状が進んでいく場合は、老化によるものではなく認知症の影響が高いと考えられるでしょう。

 認知症の原因にはアルツハイマー型認知症や血管性認知症などがありますが、いずれも完治させる治療方法はありません。早期に治療を開始することで症状の進行を抑えられる可能性があるため、早めの治療が大切です。


出典:厚生労働省 ”認知症“ 知ることからはじめようみんなのメンタルヘルス

 

文/岡本 妃香里

 

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。