幹細胞とはどのようなものか分かりやすく解説します!

再生医療

 再生医療は現代の日本で期待されている治療法の1つで、皆さんもすでに聞いたことがあるのではないでしょうか。しかし、現代の再生医療で不可欠の技術である幹細胞についてしっかりと理解している方は少ないのではないでしょうか。今回の記事では、とても重要な役割を果たしている幹細胞について説明していきます。




| 人間を構成する細胞とは?

 幹細胞の話をする前に、そもそも細胞とは何であるのかについて説明していきます。細胞とは私たちの臓器を構成する最小単位のことです。つまり、多くの細胞が集まって私たちの臓器は形成されています。実際、人間1人の体にはおよそ 60兆個の細胞が存在すると考えられています。例えば、人間の血液には酸素を運搬する赤血球や進入してきた細菌から体を守る白血球、出血したときに血を止める血小板などの細胞があります。このように、各臓器は各々の役割を担う細胞で構成されており、それらを総称して体細胞といいます。

 この体細胞のもととなるのが、これから話す幹細胞なのです。幹細胞が何かしらの役割を持つ体細胞になることを 「分化」といいますが、人間の体細胞はすべて幹細胞が分化して作られています。


| 幹細胞の特徴 自己複製能と多分化能

 幹細胞には体細胞とは異なる2つの特性があり、 「自己複製能」 「多分化能」といいます。実際に、幹細胞を用いた再生医療ではこの2つの能力が非常に重要になっています。

 「自己複製能」とは名前の通り、自分と全く同じ能力を有する細胞を作り出せるという能力です。先述したように幹細胞は特定の役割を持つ体細胞に分化します。仮にこの自己複製能が無ければ幹細胞は体細胞へと分化するだけで、体からいずれ幹細胞が無くなってしまいます。そのような状態を防ぐために、幹細胞には自己複製能があり幹細胞が常に一定数体内に存在することで、人間の体の恒常性を維持しています。

 次に、「分化能」は先述した通り、幹細胞がある特定の役割を有する体細胞に分化することをさします。幹細胞は「分化能」の違いで2つに分けられており、 多分化能幹細胞 多能性幹細胞とがあります。

 多分化能幹細胞は、ある特定の組織を構成する細胞に分化する能力を有する幹細胞です。多分化能幹細胞の1つには組織幹細胞というものがあります。例えば、皮膚なら皮膚に存在し皮膚の細胞のみに分化するといったように、組織内に存在し組織内の細胞にのみ分化する幹細胞のことをさします。一方で、複数の細胞に分化できる幹細胞を体性幹細胞といいます。体性幹細胞の1つには間葉系幹細胞という細胞があります。これは骨や軟骨だけでなく血管の細胞にまで分化できます。

 多分化能幹細胞と異なり多能性幹細胞は体内に存在するあらゆる細胞に分化することの出来る細胞です。次の章で詳細に説明しますが、多能性幹細胞には ES細胞 iPS細胞があります。


| 幹細胞の種類

 現代の再生医療で用いられているのは大きく分けて3つあり、体性幹細胞、ES細胞、iPS細胞に分かれます。これらの特徴などについて概説していきます。

体性幹細胞

 体性幹細胞は先述したように、特定の臓器に分化することの出来る幹細胞です。現代の再生医療で多く用いられている幹細胞でもあります。体性幹細胞は人間の組織内にあり、例えば血液や骨髄からは血液系の細胞に分化する造血幹細胞、脂肪組織からは間葉系幹細胞、皮膚からは皮膚幹細胞、角膜からは角膜幹細胞が採取出来ます。体性幹細胞を用いた基本的な再生医療の流れとしては、まず体性幹細胞を採取し培養することで細胞数を増やします。その後、目的の細胞に分化するように誘導し、それを何らかの方法で患者さんに投与します。

 「再生医療って何?最近耳にする再生医療について解説します!」で記載した、重症熱傷患者さんに対する皮膚移植は体性幹細胞を使用した再生医療です。自分の細胞を使用するため拒絶反応などの副作用もありません。体性幹細胞を用いたその他の再生医療に関しては次の章で具体的に説明したいと思います。

ES細胞

 多能性幹細胞の1つであるES細胞について説明していきます。ESとはEmbryonic Stem Cellの略で、日本語では胚性幹細胞と呼びます。胚性と呼ばれる通り、ES細胞は初期胚と呼ばれる、分裂をし始めた受精卵から作られます。初期胚の中には、将来胎児になる内部細胞塊というものがあり、それを摘出して適切な条件下で培養することで生成された多能性幹細胞をES細胞と呼ぶのです。1981年にイギリスのエヴァンスがマウスのES細胞を、1998年にアメリカのトムソンがヒトでのES細胞の作製に成功しました。ES細胞は再生医療だけでなく新薬の開発などにも応用できるのではないかと非常に期待されていましたが、いくつかの問題点があります。

 その中の1つに、そもそもヒトの初期胚を利用していいのかという倫理的問題があります。先述した通り、ES細胞は将来胎児となりうる初期胚を利用しなくてはなりません。しかし、初期胚を利用するということは、その初期胚を破壊するということです。将来1つの命になりうるものを研究のために利用するのはいかがなものか、という意見が出ているのです。


| 体性幹細胞を利用した再生医療の1例

 再生医療に用いられている幹細胞が3つあることは前の章で説明しました。この章では、その中でも最も使用頻度の高いとされている体性幹細胞を用いた再生医療の1例を紹介します。

 「心不全」という病態を知っているでしょうか。心臓の機能が何らかの原因により低下してしまい、軽労作での呼吸苦や体のむくみなどを呈する疾患です。原因としては弁膜症や不整脈といった心臓に起因するものから、貧血や感染症など心臓以外の要因もあります。治療としては薬物治療がメインです。心臓の動きを助ける薬や体のむくみを改善する薬が主に使用されます。

 弁膜症に起因するもののなかには、手術により奏功する場合もありますが、多くの場合は様々な要因により心不全をきたしているため薬物治療に頼らざるを得なく、また薬物治療も対処療法であり根本的な解決にはなりえません。そのため、治療に難渋している重症心不全の方への根治治療は無いのが現状でした。

 そこで重症心不全の根治治療になるのではないかと期待されている新たな治療法が 「ハートシート」と呼ばれるもので、2015年9月に保険適応となりました。これは患者さん自身の筋肉組織を一部採取し、その中に存在する体性幹細胞を培養します。その後、心筋の元となる筋芽細胞となり、それをシート状にして心臓に移植するという治療法です。臨床研究では、「ハートシート」の移植により心臓の機能が大幅に改善されると報告されています。「ハートシート」は重症心不全に対する治療方法の選択肢になりえるのではないかと期待されています。


| まとめ

 今回の記事では幹細胞のなかでも特に体性幹細胞とES細胞について説明しました。多能性幹細胞の1つであるES細胞には倫理的な問題があり研究への利用が難しいとされていましたが、そこで登場したのがiPS細胞です。iPS細胞に関してはまた別の記事で説明できればと思います。

文/高橋

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