【血管性認知症】原因や症状について詳しく解説します

再生医療

 「認知症」という病名はメディアでも取り上げられることが多いため、何となくイメージがつく方がほとんどだと思います。しかし、認知症といってもその中には様々な分類があることは知らない方が多いと思います。認知症として主なものには、『アルツハイマー型認知症』、『レビー小体型認知症』、『血管性認知症』、『前頭側頭型認知症』があり、総称して4大認知症と呼ばれます。今回の記事では、4大認知症の1つである『血管性認知症』について説明していきます。

目 次

1. 疫学
2. 原因
3. 症状
4. 検査・診断
5. 治療
6. まとめ





| 疫学

 内閣府のホームページでは、認知症と診断されているかたは 日本で462万人いるとされています。高齢化がすすむ日本では、さらに認知症を有する方は増えると考えられており、

 国民病といっても過言ではありません。認知症の半数程度はアルツハイマー型認知症が占めていますが、今回紹介する血管性認知症は 20~30%程度を占めるとされています。また、アルツハイマー型認知症と比較すると男性に多いとされています。これは原因の章で詳述しますが、原因疾患となる脳梗塞や脳出血が男性に多いことに起因すると考えられています。


| 原因

 血管性認知症はVascular Dementiaをそのまま和訳したものでありますが、名前の通り 血管病変が関与しています。具体的には脳梗塞や脳出血、クモ膜下出血といった脳血管障害が原因となります。脳梗塞では脳血管に血栓などが詰まることで血流が途絶してしまいます。また、脳出血やクモ膜下出血では脳神経細胞を栄養している血管が何らかの理由で破綻してしまい出血します。これらの脳血管障害により、一部の脳神経細胞に十分な血流がいきわたらなくなることで神経細胞の機能が損なわれて認知症を引き起こすと考えられています。

 救急搬送されるような脳梗塞や脳出血では、血流障害を起こす脳神経細胞が多いため認知症の程度も強くなります。一方で、自覚症状のない小さな脳梗塞や脳出血でも血管性認知症を引き起こす可能性があります。血管性病変のリスクとしては、生活習慣病である高血圧や脂質異常症、糖尿病や生活習慣として喫煙や飲酒、肥満、ストレスなどが挙げられます。

 これらのリスク因子を有している人は脳血管障害を起こす可能性が高く、またすでに微細な脳血管障害を起こしている可能性もありますので注意が必要です。


| 症状

 血管性認知症の初期症状としては、アルツハイマー型認知症といった他の認知症でもよく認められる記憶障害や、見当識障害・遂行機能障害などの認知機能障害が出現します。例えば、「物覚えが悪い」や「自宅に帰れなくなった」などがあります。程度にはよりますが、日常生活に支障をきたしQOLを低下させてしまいます。

 その他の症状としては、抑うつ症状や感情失禁(感情を制御することが難しくなり、突然泣き出したり笑ったりする)、頻尿や尿失禁などの排尿障害、パーキンソン症状(静止時のふるえ、姿勢反射障害、動作緩慢、筋強剛)などがあります。アルツハイマー型認知症では、これらの症状が出現するのは病状が進行してからですが、血管性認知症では初期からこのような症状を認める人もいます。また、血管性認知症では脳血管障害に起因する手足の麻痺といった運動障害や構音障害を認める場合もあります。運動障害や構音障害は他の認知症ではみられないことが多いため、血管性認知症に特徴的な症状といえます。

 さらに、血管性認知症は症状の進み具合といった点からも他の認知症とは異なります。4大認知症である『アルツハイマー型認知症』はアミロイドβ蛋白やタウ蛋白といった異常な蛋白が蓄積することにより、また『レビー小体型認知症』では名前の通りレビー小体という異常な蛋白が蓄積することにより脳神経細胞の機能が低下します。そのため、認知症の症状は徐々に進行していきます。一方で、血管性認知症は 脳血管障害を契機に生じる認知症です。そのため、血流障害が起こった部位の神経細胞の機能のみが失われます。そのため、自分がどこにいるのか分からなくなるような見当識障害はあるにもかかわらず、記憶障害はまったくないといったことが起こります。

 この特徴から血管性認知症は 『まだら認知症』といわれることもあります。また、血管性認知症の症状は慢性的に進行するわけではありません。脳梗塞や脳出血といったイベントが原因となるため、それらが生じていない時は症状の程度は変わりませんが、一度脳血管障害が起こると症状は急に増悪するため階段状に進行するともいわれます。しかし、先述したように微細な脳出血や脳梗塞が原因となる場合は階段状の経過を示さないこともあります。


| 検査・診断

 血管性認知症の原因となる脳出血や脳梗塞は 画像検査から明らかになります。脳出血の場合は頭部CTで診断することが出来て、急性期のものか、もしくは陳旧性のものかまで判断できます。また、頭部MRIを使用することで微細な出血もわかります。

 一方で、脳梗塞の場合、頭部CTで急性期の梗塞は診断できる場合もありますが、基本的に確定診断となりうるのは 頭部MRIの所見です。いずれにせよ、脳血管障害のほとんどは頭部CT・頭部MRIで診断することが出来ます。さらに、脳出血や脳梗塞の原因を判定するために脳血管の性状を精査する場合は、脳血流シンチグラフィーや脳血管造影検査、MRA(頭部MRIで脳血管を画像化する検査)などが行われます。

 血管性認知症と診断するためには以下の3つの基準を満たすことが必要です。

    • 認知症を発症していること
    • 画像検査より脳血管障害を有していると診断されていること
    • 認知症と脳血管障害との因果関係が明らかであること

 認知症と脳血管障害を診断することは、本人の症状や先述した画像検査から可能です。しかし、両者との因果関係を明らかにするのは困難な場合があります。例えば、高齢者が記憶障害や見当識障害などを有して認知症と診断された場合、検査として頭部CTや頭部MRIを実施されることが多いです。高齢者の場合ですと症状のない陳旧性の脳出血や脳梗塞を有している場合があります。その際、認知症が微細な脳血管障害によるものかは判断が難しいのです。


| 治療

 血管性認知症の場合、治療として重要なのは原因である脳血管障害の再発予防と認知機能に応じた対処療法です。脳出血や脳梗塞の場合は原因が生活習慣病である高血圧や脂質異常症、糖尿病に起因することがあるので、それらに対する治療強化を行います。また、脳梗塞の場合であれば抗凝固薬や抗血小板薬が使用されることもあります。

 認知症に対する対処療法としては、アルツハイマー型認知症で使用されるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬があります。また、損なわれている症状に応じた理学療法があります。


| まとめ

 血管性認知症は他の認知症とは異なり、脳血管障害という器質的異常が原因となる認知症です。生活習慣に気を付けることで脳出血や脳梗塞の予防につながり、しいては血管性認知症の予防にもつながります。自分の健康を維持するためにも、生活習慣を見直すとよいかもしれません。

文/高橋

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。