幹細胞上清液とは? 幹細胞との違いについてご紹介します!

再生医療

 近年の医学の進歩にはすさまじいものがあり、今までは症状に合わせた対症療法がメインであった疾患に対しても根治的な治療法が望めるような状況になりつつあります。新規の治療法のなかでも、最も期待されているといっても過言でないものに幹細胞を利用した再生医療があります。すでに保険適用がされている再生医療も多くあり、医療に携わっていない方も幹細胞という名前を聞いたことがあるという方は多いのではないでしょうか。

 一方で、「幹細胞上清液」という言葉を知っている方が少ないと思います。幹細胞上清液を用いた治療法の効果は明確には示されておらず研究が進められている段階です。そのため、保険適用は通っていませんが、今後治療の効果が証明されれば知名度も上がるかもしれません。今回の記事では幹細胞上清液についてご紹介します。





| 幹細胞上清液はどのように生成されるのか

 幹細胞上清液は幹細胞を生成する過程に生じるもので、以前は医療廃棄物として処分されていました。再生医療に利用されている幹細胞にはいくつか種類がありますが、最も利用されているのは 体性幹細胞というものです。

 体性幹細胞は特定の臓器に分化することが出来て我々の体内にも存在します。例えば、脂肪組織からは間葉系幹細胞、皮膚からは皮膚幹細胞、角膜からは角膜幹細胞が採取出来ます。再生医療にこれらの幹細胞を使用するには採取した分だけでは足りないため、細胞数を増やすことが重要です。

 そこで行われるのが幹細胞の培養です。培養した幹細胞は遠心分離されて取り除かれますが、その際に余った培養液のことを幹細胞上清液と呼びます。


| 幹細胞上清液の成分

 人間の組織を構成する一般的な細胞の体細胞と異なり、幹細胞には 「自己複製能」 「多分化能」があります。自己複製能は名前の通り自分と同じ機能を持つ細胞を作り出す能力のことで、多分化能は特定の役割をもつ体細胞に分化する能力のことです。

 幹細胞がこの2つの能力を発揮する際には 「サイトカイン」と呼ばれる物質を放出します。そのため、幹細胞上清液にはサイトカインが多く含まれているのです。このサイトカインにより次の章で挙げるような作用を幹細胞上清液は有していると考えられています。


| 幹細胞上清液の作用

 幹細胞上清液に含まれるサイトカインは以下のようなものがあります

  • VEGF(血管内皮細胞増殖因子);血管新生作用
  • HGF(肝臓細胞増殖因子):組織再生・活性化作用
  • FGF(線維芽細胞増殖因子):血管新生作用、創傷治癒促進
  • TGF-β(トランスフォーミング増殖因子):抗炎症作用、創傷治癒促進

 これらのサイトカインにより幹細胞上清液は以下の作用を有するのではないかと考えられています。

  • 抗炎症作用:名前の通り炎症を抑制します。関節痛や筋肉痛に有効です。
  • 創傷治癒作用:損傷した細胞の修復を活性化し、創傷による瘢痕の修復が進みます。
  • 血管新生作用:動脈硬化などにより血流が少なくなった場合に、別の血管を新生することで血流量を保ちやすくなります。

| 幹細胞上清液の活用法

 前の章で挙げた幹細胞上清液の持つ効果に関しては、まだ明らかになったものではないため、医療への応用が研究されている段階です。そのため、幹細胞のように特定の疾患の根治的な治療法につながるようなものでは、現段階ではないといえます。

 しかし、先述した作用をもつと考えられていることから、エイジングケアの美容医療や発毛・育毛効果を狙ったAGA(男性型脱毛症)、性機能回復を狙ったED(勃起不全)の治療として使用されるようになってきています。


| 幹細胞上清液を用いた治療法

 この章では、まだ実臨床の場で実践はされていませんが、幹細胞を用いた再生医療と同様に、今までは対症療法しか存在しなかった疾患の根治療法になりうるのではないかと考えられている幹細胞上清液を用いた治療法について説明していきます。

 「アルツハイマー型認知症」という疾患をお聞きしたことはありますでしょうか。一般的に慢性もしくは進行性の脳疾患により、脳の持つ機能が損なわれる疾患のことを認知症といいます。内閣府の統計では、認知症を有する高齢者は462万人になることが知られていて、この数字では65歳以上の高齢者の7人に1人が認知症を患っていることになります。高齢化の進む日本で認知症は国民病の1つといっても過言ではありません。認知症の原因疾患として7割弱と最も大きな割合を占めているのが「アルツハイマー型認知症」です。

 アルツハイマー型認知症の原因は、アミロイドβ蛋白やタウ蛋白といった異常蛋白が脳に集積することで、脳の正常な神経細胞を傷害してしまうことが原因です。

 症状として、早期は記憶障害からはじまり、進行するにつれて見当識障害や抑うつ症状が生じ日常生活を送るのに支障をきたしてしまいます。治療としては薬物療法やリハビリテーションなどの非薬物療法がありますが、症状に合わせた対症療法にしかすぎません。対症療法は症状を遅らせるだけの治療であるため、アルツハイマー型認知症の根治療法は存在しないという状況でした。

 そこで、現在研究が進められている治療法の1つに幹細胞上清液を用いた治療法があります。幹細胞上清液には先述したように様々なサイトカインが含まれます。はっきりとした機序は判明していませんが、これらのサイトカインが脳の神経細胞の活性化に大きく寄与するのではないかと考えられています。

 日本では名古屋大学でマウスを使った研究が進められていて、幹細胞上清液による一定の効果が示されていますが、人間への投与での効果についてはまだ研究で示されてはいません。そのため、人間への投与をした際の副作用などについては、まだはっきりとしていません。

 投与方法についてもかなり議論されていて、いわゆる通常の薬の投与方法である経口投与や経静脈投与ではなく経鼻投与が良いのではないかと考えられております。

 これには脳が持つ 脳血管関門(Blood-Brain Barrier (BBB))という構造が関与しています。名前の通りBBBでは、体から血流を介して脳に入ってくる物質の一部を通さないようにする役割があります。幹細胞上清液に含まれるサイトカインの多くはBBBの影響を受けてしまうため、経静脈投与をしても標的臓器である脳にはあまり到達しません。

 しかし、経鼻投与ではBBBの影響を受けずに脳に到達することが出来るのです。この治療法は保険適応が通ってはいませんが、一部の医療機関では自由診療として行われています。


| まとめ

 

 幹細胞上清液に関してはこの記事を通して始めて知ったという方も多かったのではないでしょうか。幹細胞上清液を用いた治療法のほとんどは研究の途中段階であるため、効果があるとははっきりと分かっていません。しかし、幹細胞を用いた再生医療と同様に、ある疾患に対して画期的な治療法を提供することになるのかもしれません。今後の研究に期待したいと思います。

文/高橋

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。