再生医療にはどんな治療方法があるの?詳しく解説します!
今までの医療では、失ったものは取り戻せないことが多くありました。切断した腕や脚、手術で取り除いた臓器が元に戻ることはありません。しかし、再生医療を利用すれば、これまで不可能とされてきた治療が実現する可能性があります。
実際に2014年には、世界初となるiPS細胞を用いた移植手術が行われました。ところで、再生医療とは具体的にどのような治療なのでしょうか。今回は、再生医療を用いた治療方法やメリット・デメリットなどについて解説します。
目 次
1. 再生医療とは
2. 主な再生医療の治療方法
3. 再生医療による改善が期待されている主な病気
4. 再生医療のメリット・デメリット
5. まとめ
| 再生医療とは
再生医療とは、病気や手術が原因で失われた組織の再生を目指す治療のことです。治療薬が存在しない疾患や明確な治療法がない疾患に対して、再生医療が新しい治療法となる可能性があります。
培養した体性幹細胞を利用した皮膚や軟骨の移植は、すでに保険適用で行うことが可能です。体性幹細胞は、限られた種類ではありますが、さまざまな細胞に分化できることで知られています。分化とは、役割をもたない細胞が何かしらの機能をもつ細胞に変化することです。
再生医療に使われる幹細胞とは
再生医療の主役となるのが、幹細胞と呼ばれる細胞です。通常の細胞は、目の細胞は目に、皮膚の細胞は皮膚にしか分化しません。しかし幹細胞は、あらゆる細胞に分化することができます。つまり幹細胞は、目にも皮膚にもなれるのです。
幹細胞の種類
幹細胞には、大きくわけて「体性幹細胞」と「多能性幹細胞」、「組織幹細胞」の3つがあります。このうち、次世代の再生医療としてとくに注目されているのが、多能性幹細胞と組織幹細胞です。
<多能性幹細胞>
- ES細胞
受精卵の一部から取り出して作られた細胞です。シャーレの中で増殖することができ、さまざまな細胞に変化させられます。ただし、女性から卵細胞を提供してもらわなければならず、効率よくES細胞を作れないことが大きな課題です。 - iPS細胞
iPS細胞は、人間の皮膚や血液などから作られます。培養することで無限に増やせ、さらにさまざまな細胞に分化させることが可能です。自身の皮膚や血液から作れることから、移植後に拒絶反応が起こりにくいといわれています。
〈組織幹細胞〉
- 造血幹細胞
白血球や赤血球、血小板などの血球に分化できる細胞です。私たちの骨髄にもともと存在し、日頃から血球を作り出す働きをしています。 - 骨髄幹細胞
骨髄に存在し、骨や脂肪、軟骨などに分化する働きをもつ細胞です。厳密には造血幹細胞と区別されています。 - 脂肪幹細胞
脂肪組織から作られた幹細胞です。脂肪組織には骨髄よりも多くの幹細胞が含まれていることから、幹細胞を大量に作るのに向いています。 - 歯の幹細胞
歯の幹細胞には、歯髄幹細胞や歯根幹細胞、乳歯幹細胞など多くの種類があります。増殖能が高く、骨や脂肪などさまざまな細胞に分化できることが特徴です。
| 主な再生医療の治療方法
再生医療を行う際、多くは自分自身の細胞から作った幹細胞を注入することで治療が行われていきます。体内に注入された幹細胞は、組織細胞の活性化や修復をしたり、自身が対象の細胞に分化したりすることが特徴です。
再生医療に適しているか検査を行う
まず、再生医療を行っても問題ない状態かどうかを検査します。感染症にかかっていたり、治療に向かないと判断されたりした場合は再生医療を受けられません。
骨髄液などを採取する
幹細胞を作るのに必要な骨髄液や脂肪などを採取します。その後、厚生労働省の許可を受けた施設で細胞の培養を行い、できあがった幹細胞を投与していきます。幹細胞の投与を実行するには、医師の判断が必要です。
経過観察
幹細胞を投与した後は、定期的な経過観察が必要となります。厚生労働省に経過を定期的に報告する義務があるためです。
| 再生医療による改善が期待されている主な病気
再生医療の技術が進めば、これまで完治が難しかったさまざまな病気を治療できる可能性があります。現時点で再生医療による改善が期待されている病気としては、次のものが代表的です。
変形性膝関節症
変形性膝関節症は、加齢によって膝の関節にある軟骨がすり減っていくことで起こります。階段の上り下りがきつくなったり正座ができなくなったりし、最終的には日常での歩行が難しくなることもある病気です。骨折や靱帯損傷などが原因で起こることもあります。
変形性膝関節症は、鎮痛剤や湿布薬を使えば痛みを止めることは可能です。しかし、すり減った軟骨が元に戻ることはないため、根本的な治療にはなりません。
変形性膝関節症の再生医療では、 自家多血小板血血漿(PRP)を用いることが多いでしょう。患者さんの血液を濃縮したものを関節に注入することで、関節痛や炎症を抑えられます。
加齢黄斑変性
加齢黄斑変性とは、目にある黄斑という組織がダメージを受けることでものが歪んで見えたり視野が欠けたりする病気です。ダメージを受けた黄斑を元に戻すことはできませんが、早期に治療を始めることで症状の進行を抑えられます。 近年では、加齢黄斑変性の手術でダメージを受けた部分にiPS細胞を利用して作った網膜色素上皮細胞を移植する治療が行われるようになりました。まだ研究段階ではありますが、加齢黄斑変性の根本治療ができるのではと期待されています。
肝硬変
肝硬変は、肝臓の組織が繊維化することで腹水や黄疸などが見られる病気です。残念ながら、肝硬変そのものを治す治療法は今のところありません。肝硬変で不足しやすいアミノ酸を補充したり、肝硬変の原因となる感染症を治療したりしていくことが基本です。
繊維化した肝臓は元に戻らないというのが通説でしたが、幹細胞を使った再生医療を行うことで、肝臓の組織が再生し、肝機能が改善することが確認されました。
加齢によるシミ・しわ
シミやしわは年齢を重ねるにつれてできやすくなります。内服薬やレーザー治療などシミやしわを目立たなくする方法はすでに多くありますが、再生医療の技術も使われるようになりました。幹細胞をシミやしわがあるところに注入することで、症状の改善が期待できるのです。
| 再生医療のメリット・デメリット
再生医療がより身近なものになれば、私たちはもっと自由に健康的に生きられるようになるかもしれません。しかし、多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。
再生医療のメリット
- 体への負担が少ない
- 対症療法しかなった疾患の根本治療ができる可能性がある
- 副作用や感染症のリスクが少ない
本来は手術が必要だった病気でも、幹細胞を注射するだけで済みます。手術による体力消耗や傷跡の回復に時間がかからないのは大きなメリットです。
これまで治療が難しかった病気も治せるようになるかもしれません。また、手術と比べると副作用や感染症のリスクも低くなっています。
再生医療のデメリット
- 実績が少なく、必ず治療効果があるとは言い切れない部分もある
- 自由診療扱いの再生治療は高額な費用がかかる
- 倫理的な問題がある
再生医療は、まだまだ発展途上にある医療です。100%の効果があるとは言いきれません。また、多くの再生医療は自由診療のため、治療に 100万円以上かかることもあります。
ES細胞を使う場合は、本来なら赤ちゃんになるはずだった卵細胞を使うことになるため、倫理的に問題があるのではという声も少なくありません。
| まとめ
再生医療とは、組織の再生を促す治療のことです。ES細胞やiPS細胞、造血幹細胞などを利用して治療が行われています。現在は、変形性膝関節症や加齢黄斑変性、肝硬変などの治療に再生医療が用いられるようになってきました。
まだ十分な情報が少ないこと、自由診療扱いの治療は高額になりやすいことから、一般に普及しているとは言いがたいでしょう。ただし、これまで治療が難しかった病気の根本的な解決につながる可能性があるため、大きな注目を集めています。
出典: 厚生労働省 ”再生医療について“
厚生労働省 ”再生医療等の安全性の確保等に関する法律について“
京都大学iPS細胞研究所CIRA ”iPS細胞とは?
名古屋大学大学院医学系研究科 病態内科学 腎臓内科 ”脂肪由来幹細胞を用いた再生医療“
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