幹細胞にはどんな種類があるの?わかりやすくご紹介いたします!

再生医療

 幹細胞は、美容や医療で大きく注目を集めています。肌を再生したり、治療が困難とされる疾患を治したりできる可能性があるためです。

 ところで、幹細胞にはいくつか種類があるのをご存知でしょうか。「幹細胞」とひとくちで言われることが多いですが、種類によって特徴や働きは異なります。

 今回は、それぞれの幹細胞にどのような特徴や働きがあるのか、どういった活用方法が期待されているのかについて詳しく見ていきましょう。





| 幹細胞とは

 幹細胞とは、さまざまな細胞に分化できる能力をもつ細胞のことです。通常の細胞は、目なら目に、皮膚なら皮膚にしかなれません。しかし、幹細胞なら目や皮膚、神経や血液などあらゆる細胞になることができるのです。また、自分とまったく同じ能力をもった細胞に分裂する自己複製能ももっています。

 幹細胞と聞くと特別なもののように思われるかもしれません。幹細胞は私たちの体にとってなくてはならない存在です。人間は無数の細胞により構成されていますが、もとはといえばたった1つの受精卵から作られています。受精卵から手や足、皮膚や臓器などが作られるのは幹細胞のおかげです。

 さまざまな細胞に分化することができる幹細胞は、医療や美容分野で大きく注目を集めています。医療分野では、自身から採取した幹細胞を培養し、膝の軟骨や半月板などを修復する治療が実際に行われています。

 しかし、幹細胞を使用した治療のほとんどは自費診療です。そのため、医療機関によっては治療費が数百万円に及ぶこともあります。美容分野では、若返り治療に幹細胞が用いられることが一般的です。幹細胞治療を行うことで、ほうれい線や目の下のクマ、しわやたるみなどを改善する効果が期待されています。


| 幹細胞の種類

 幹細胞は、大きくわけて次の2種類があります。

  • 多能性幹細胞
  • 組織幹細胞

 それぞれどのような役割をもっているのか、詳しく見ていきましょう。


| 多能性幹細胞

 多能性幹細胞とは、ほとんどすべての細胞に分化する能力をもつ細胞のことです。よく耳にすることが多い iPS細胞 ES細胞は、多能性幹細胞の一種として知られています。

・iPS細胞

 iPS細胞は、人の皮膚や血液から採取した体細胞に多能性誘発因子を導入して培養することで作られる細胞です。もともとは、あらゆる細胞に分化できるものとしてES細胞が開発されていました。

 しかし、ES細胞を作るためには受精卵が必要です。本来なら受精卵はそのまま育って人間へとなります。それを幹細胞として利用するのはどうなのかということが倫理的に問題視されるようになったのです。

 そこで受精卵を使わずに幹細胞を作れるiPS細胞の研究が進められました。患者さん自身の細胞から培養して作れるため、拒絶反応が起こりにくいことが特徴です。現在のところ、iPS細胞から神経や心筋、血液などさまざまな組織や臓器が作れることがわかっています。また子どもから高齢者まで幅広い方の細胞からiPS細胞を作り出すことが可能です。

 iPS細胞を使って、治療が難しいとされている疾患の治療薬を作ろうとする研究も進められています。筋萎縮性側索硬化症(ALS)や家族性アルツハイマー病など、現在は根本的な治療ができない疾患も、数年後にはiPS細胞を使用して治療ができるようになっているかもしれません。

・ES細胞

 ES細胞とは、受精卵から作られるあらゆる細胞に分化する能力をもった細胞のことです。不妊治療のために採取された胚をもとに作られます。胚とは、受精卵のことです。提供者に許可を取り、治療に用いられることのなかった胚からES細胞を作っていきます。

 ES細胞はさまざまな細胞に分化できるものの、受精卵からしか作れないため基本的には他人の細胞を移植することになるのが問題視されてきました。自分の細胞ではないものを体に入れると、拒絶反応が起こることがあるのです。

 また、本来は一人の人間となるはずだった細胞を利用して作られていることから、倫理的な問題があるのではという声も絶えません。以前はES細胞を使った研究が活発に行われていましたが、拒絶反応が起こる可能性があること、倫理的な問題があることから現在はES細胞よりもiPS細胞の研究に注力される傾向があります。

 とはいえ、ES細胞が臨床の場でまったく活かされていないわけではありません。アンモニアを体内で分解することのできない新生児を対象に、ES細胞から作った肝細胞を使用した治療を実際に行ったところ、肝細胞移植を行った結果、対象の新生児でアンモニアの上昇を抑えることができました。


| 組織幹細胞

 組織幹細胞とは、骨髄や肝臓などに存在し、さまざまな種類の細胞に分化できる細胞のことです。iPS細胞やES細胞のように、あらゆる細胞に分化できるわけではありません。私たちの体には次のような組織幹細胞が存在します。

・造血幹細胞

 造血幹細胞は骨髄に存在し、赤血球や白血球、血小板などを作り出すことができる細胞です。通常の治療では治すことが難しい血液がんや免疫不全症などの患者さんに対して、造血幹細胞の移植が行われることがあります。

・骨髄幹細胞

 造血幹細胞と同じく、骨髄に存在する細胞です。培養条件を変えることで、骨や脂肪、軟骨や心筋などさまざまな細胞に分化できます。

・脂肪幹細胞

 脂肪組織から採取される幹細胞です。自身の脂肪から採取して培養されることから、拒絶反応が起こりにくいとされています。骨髄幹細胞と同じく、骨や脂肪、軟骨など多くの細胞に分化することが可能です。

・歯の幹細胞

 歯に関連する幹細胞には、歯髄幹細胞や歯根膜幹細胞、歯乳頭幹細胞や乳歯幹細胞などがあります。歯の幹細胞は骨髄幹細胞よりも増殖スピードがとても速いことが特徴です。骨や脂肪、神経などに分化することがわかっています。


| 間葉系幹細胞とは

 間葉系幹細胞とは、脂肪や骨、軟骨などの中胚葉性組織に分化できる幹細胞のことです。組織幹細胞の一種として知られており、骨髄や脂肪、臍帯などから採取できます。多くの組織から採取できるため、医療現場で活用しやすいことが特徴です。これまでの研究では、内臓組織や外胚葉系の神経などの細胞にも分化できることがわかりました。

 間葉系幹細胞は細胞に分化するだけでなく、免疫反応を抑制したり腫瘍に集まったりする性質があることもわかっています。そのため現在は、移植による拒絶反応の防止に間葉系幹細胞を使用したり、がん治療に活用したりできないか研究が行われているところです。間葉系幹細胞を利用して人工臓器や臓器が作れないかといった研究も進められています。


| まとめ

 幹細胞とは、さまざまな細胞に分化する能力をもつ細胞のことです。大きくわけると、多能性幹細胞と組織幹細胞の2種類があります。多能性幹細胞にはiPS細胞やES細胞があり、それぞれ多くの細胞に分化できることが特徴です。

 組織幹細胞には造血幹細胞や骨髄幹細胞などがあり、特定の細胞に分化できることがわかっています。まだまだ研究段階の幹細胞ですが、うまく活用することでこれまで治療不可能とされてきた疾患も治せるようになる日が来るかもしれません。


出典:国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ”先天性尿素サイクル異常症でヒトES細胞を用いた治験を実施―ヒトES細胞由来の肝細胞のヒトへの移植は、世界初!―
   京都大学iPS細胞研究所 CiRA(サイラ) ”iPS細胞とは?

文/岡本 妃香里

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