アルツハイマー型認知症とは? 詳しく解説します!
| 認知症とは
「認知症」という言葉を一度でも聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。急速に高齢化が進む日本では、認知症にかかっている患者さんは非常に増えてきています。また、若年性認知症という言葉がある通り、若い人にとっても無縁の病気ではありません。
「世界保健機関による国際疾病分類第10版」には、認知症は以下のように定義されています。
『通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断等多数の高次脳機能の障害からなる症候群』
なんだか小難しく感じてしまうかもしれませんが、結局は様々な脳に関する要因により脳の持つ機能が損なわれる病態のことを認知症といいます。
認知症には原因や症状によりいくつかの種類があります。その中でも多くを占めているのを4大認知症といい、多いものから順に「アルツハイマー型認知症」、「血管性認知症」、「レビー小体型認知症」、「前頭側頭型認知症」といいます。
今回の記事では、認知症の中でも半分以上を占めるアルツハイマー型認知症について説明していきます。
| 疫学
「内閣府のホームページ」によると、認知症を有する高齢者は462万人となっており、65歳以上の高齢者の約7人に1人が認知症を患っている計算になります。しかし、2025年の推計では、735万人となっており、65歳以上の高齢者の5人に1人は認知症を有することになります。
また、認知症の予備軍である軽度認知障害(mild cognitive impairment : MCI)は2012年時点では400万人と報告されていました。さらに、2025年にはMCIは認知症を有する高齢者と同じ程度の人数にのぼると報告されており、認知症とMCIを有する患者は合計で1500万人に近い値となり、国民病といっても過言ではありません。
先述したように、アルツハイマー型知症は認知症の7割近くを占めます。2025年の推計にあてはめると、65歳以上の高齢者の7人に2人はアルツハイマー型認知症を患っている計算になります。如何にアルツハイマー型認知症が多いのか実感がわくはずです。
アルツハイマー型認知症の原因にはアミロイドβ蛋白やタウ蛋白といった物質が深く関わっていることが知られています。何らかの原因によりアミロイドβ蛋白の産生の亢進や、排泄が抑制されることで脳内にアミロイドβ蛋白が異常にたまってしまいます。アミロイドβ蛋白が蓄積されて出来るものを老人班と呼びますが、
これには脳内の神経細胞への毒性があります、そのため、老人班により神経細胞が変性してしまいます。
また、タウ蛋白という物質が異常にたまることでも神経細胞に悪影響を及ぼし、その影響のことを神経原線維変化と呼びます。明らかなことは分かっていませんが、アミロイドβ蛋白の蓄積によりタウ蛋白もたまるのではないかと考えられています。
アミロイドβ蛋白やタウ蛋白の蓄積により神経細胞は変性して脱落してしまいます。これにより脳の萎縮が生じて、後述するような様々な症状がでます。実際に、アルツハイマー型認知症の脳は正常の脳と比較すると萎縮しているため大きさは小さいです。
アミロイドβ蛋白やタウ蛋白がなぜ蓄積するのかは分かっていませんが、加齢に加えて遺伝的要因や環境要因が加わることによるのではないかと考えられています。環境要因としては頭部外傷や高血圧、糖尿病といった生活習慣病が挙げられます。
| 症状
症状の分類には、症状の内容によるものと重症度によるものがあります。
症状の内容による分類としては中枢症状とBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)があります。中枢症状は具体的には記憶障害や見当識障害のことで、認知症で必発の症状のことをいいます。一方で、BPSDは別名、行動・心理症状といいます。これは中枢症状に付随しておこる症状です。例えば、以前よりも日常会話が思うようにできなくなり、人と話すのが億劫になってしまうことが挙げられます。
また、アルツハイマー型認知症は原因で先述した通り神経細胞の変性・脱落による病態であるので進行性の病気です。そのため、症状も徐々に進行するものであり、軽いものから順に、MCI⇒軽度⇒中等度⇒高度に分類されます。
アルツハイマー型認知症では、最初に脳の海馬という場所が萎縮してしまいます。海馬は人間の記憶を司る部位なので、アルツハイマー型認知症では早期から記憶障害が起こります。MCIでは少し前のことが思い出せない近時記憶障害を示しますが、日常生活には支障をきたさない程度です。
次の段階である軽度では、近時記憶障害が日常生活に支障をきたすレベルになります。このほかにも中枢症状として、判断力の低下や時間に関する見当識障害があります。また軽度からみられるBPSDとしては、不安・抑うつや物盗られ妄想などがあります。物盗られ妄想は近時記憶障害によるものです。例えば、少し前に財布を机に置いたはずが、どうしても置いた場所を思い出せない場合、自分が忘れているという自覚がないため、誰かが盗んだのではないかと疑ってしまいます。
中等度になると時間だけでなく場所に関する見当識障害も起こります。また、頭頂葉の萎縮が始まってしまうため、頭頂葉が司る機能が失われることにより失語、失行といった症状が出現します。また、徘徊や食行動の異常、幻覚などのBPSDがより目立つようになります。中等度になると、日常生活を送るためにはかなりの介護が必要になります。
重度になると時間や場所だけでなく人物の見当識障害が起こるため、家族や友人など親しい人を認知できなくなります。また、脳全体が萎縮してしまうため、最終的には自分では何もできなくなってしまう状態になり、生きていくのに常に介護が必要になります。
| 検査
アルツハイマー型認知症は様々な検査を組み合わせて診断していきます。一般的には、始めに記憶障害などの症状や神経診察、認知機能を測定するHDS-RやMMSEという認知機能検査が行われます。また、追加の検査として頭部CTや頭部MRI、脳血流シンチグラフィを行い脳の萎縮している部位を確認したり、レビー小体型認知症や血管性認知症といった他の原因による認知症を除外することが必要です。
最も確実な診断方法は脳脊髄液を採取し、アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβ蛋白やタウ蛋白を検出することですが、侵襲が大きい検査であることや保険適応外であることから、この検査を行わずにアルツハイマー型認知症と診断する施設が多いです。
| 治療
治療は薬物治療と非薬物治療とに分けられます。
アルツハイマー型認知症の薬として認可されているのは計4種類で、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬であるアリセプトやレミニール、リパスタッチ/イクセロンパッチとNMDA受容体拮抗薬であるメマリーがあります。これらの薬剤は脳の神経細胞の神経伝達を助けることで、認知症の症状の進行を遅らせることが出来ます。
非薬物療法としてはリハビリテーションなどがあり、各々の症状に応じて運動療法やコミュニケーションを図る回想法があります。
| 予防と早期診断
アルツハイマー型認知症の発症には運動不足や食事などの生活習慣が関与しているのではないかと考えられています。予防のためにも日々の生活習慣を見直すことが重要です。また、治療で述べたように、現時点ではアルツハイマー型認知症の根本治療はありません。
つまり、アルツハイマー型認知症を出来るだけ早期に診断し治療を受けることが大切になります。そのため、物覚えが悪いなど気になる症状があればすぐに医療機関を受診することが重要です。また症状に気が付くためにも、周囲の人々の認知症に対する理解が必要と考えられます。
出典:朝田隆、認知症の実態把握に向けた総合的研究 平成22年度総括・分担研究報告書 : 厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業.
: 内閣府( 平成29年版高齢社会白書(概要版))
: World Health Organization.International Statistical Classification of Diseases and Related HealthProblems. 10th Revision. Geneva: World Health Organization; 1993.
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