知っておこう!認知症の方への徘徊対策

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 認知症とは、認知機能が低下することで日常生活にさまざまな影響が出ている状態のことです。物忘れがひどくなって何度も同じことを聞いてきたり、怒りっぽくなったりなど症状は人それぞれです。

 いろいろな症状が出てくるなかで、とくに頭を悩ませるのが「徘徊」ではないでしょうか。気づいたら家の中からいなくなっており、外を探し回った経験がある方も多いでしょう。

 今回は、なぜ認知症の方は徘徊をするのか、どうすれば徘徊を止められるのかなどについて対策を紹介します。





| 徘徊とは

 徘徊とは、あてもなくうろうろ歩き回ることです。認知症になると、記憶障害や判断力の低下などが起こる 中核症状と、せん妄や抑うつなどが見られる 行動・心理症状(BPSD)が見られます。徘徊は、行動・心理症状の一つです。

 知らない間に家から一人で出かけてしまうため、徘徊には行方不明になったり途中で転倒してケガをしたりなどのリスクがあります。夏場の徘徊は、脱水症状を起こしたり熱中症になったりすることもあるでしょう。認知症になると季節に合わせた服装を選ぶことができなくなるため、冬場に徘徊して低体温症になる可能性もあります。

 ところで、「徘徊」の本来の意味をご存知ですか?辞書で調べてみると、「あてもなく歩きまわること(出典:北原保雄編、明鏡国語辞典第二版、大修館書店(2017年4月1日版)p.1376)」と記載がされています。

 しかし、認知症の患者さんは必ずしも「あてもなく」歩き回っているわけではありません。むしろ何かしらの目的をもっていることが多くあります。そのため、本来は認知症の患者さんに対して「徘徊」という言葉を使うことはあまり適切ではありません。


| 徘徊の原因

 介護をする側からすると、勝手に家から出ないで欲しいと思わざるを得ません。きちんと帰ってきてくれるならまだしも、そのまま行方不明になることも少なくないためです。なぜ認知症の患者さんは、徘徊をするのでしょうか。原因としては次のものが考えられます。

・自分がいる場所がわからなくなる

 認知症の患者さんは、自分が今いる場所が突然わからなくなることがあります。たとえ家の中であったとしても「ここはどこ?」となってしまうのです。

 「自分の家じゃない」「他人の家になぜいるのだろう」とひとたび考えてしまうようになると、自分の家にいるにもかかわらず本来の場所に帰宅しようとして徘徊という行動を取ってしまいます。

・道に迷ってしまう

 本来は何か目的があって外出される患者さんも少なくありません。用事があるため外に出たものの、途中で自分がいる場所がわからなくなり、結果として徘徊してしまう患者さんもいます。これは、認知機能の衰えにより慣れた土地でも道がわからなくなることがあるためです。

 知っている道を歩いていたはずなのに、突然「ここはどこなのだろう?」と思うようになります。しかし「人に道を聞くのが恥ずかしい」「みっともない」と感じて自力で元の場所に戻ろうとあちこち歩き回るため徘徊してしまうのです。

・自分がなぜここにいるのかわからなくなる

 病院やデイサービスにいたのに、急に姿を消す患者さんも多いでしょう。「なぜここにいるの?」と自分が今その場所にいる理由がわからず、帰宅しようとするため徘徊につながることがあります。また、ここがどこなのかを確かめるために歩き回って調べようとして、徘徊となるケースも少なくありません。

・過去の自分の記憶が蘇る

 認知症になる前に毎日のように行っていた仕事や家事、育児などを思い出して当時の行動を取ろうとすることがあります。

 看護師をしていた方が夜に徘徊するのは、病棟の見回りをしていた当時の記憶が蘇っているからだという話を聞いたことがありませんか?認知症になると、昔の記憶があたかも現在の記憶のように感じるようになるため、「見回りをしなければ」と思って歩き回ってしまうのです。

 バス通勤していた方はバスに乗ってどこかへ行こうとしますし、子育てをしていた方は子どものお迎えに行こうとします。

・安心できる居場所を探そうとする

 認知症の方は、家族や知人の顔を見ても誰なのか識別できないことがあります。そのため、知らない人に囲まれていることに恐怖心を抱き、安心できる場所を探そうと徘徊してしまうこともあるでしょう。どこなら自分が安心して過ごせるのか、どこに行けば顔なじみの人と過ごせるのかを患者さんは不安に感じています。


| 徘徊による行方不明者数

 警視庁が発表している「令和元年における行方不明者の状況」によると、令和元年に認知症による徘徊で行方不明になった方の数は17,479名でした。」これは、一日あたりに換算すると、 毎日約48名もの方が行方不明になっていることになります。

 一日に48名と聞くと、かなり多いと感じた方が多いでしょう。しかしこの数字は、あくまで警察に届け出があったものだけの数字に過ぎません。届け出がないこともよくあるので、実際はこれよりもさらに行方不明者数は多いと考えられます。


| 徘徊のリスク

 認知症の患者さんの徘徊は、時に命に関わることがあります。

  • 目的地がどんなに遠くても歩いて行こうとする
  • 道がわからなくなり迷子になることが多い
  • 熱中症や低体温症になることがある
  • 転倒してケガをする恐れがある

 何キロ先の目的地であっても、歩いて行こうとします。ただし、途中で迷子になることが多く、目的地を見失ってしまうことが少なくありません。

 徘徊したその日のうちに見つかればまだいいほうですが、何日も行方不明になってしまうこともあります。そうなると、熱中症や低体温症になる恐れもあるでしょう。転倒して骨折することもあることから、徘徊はとても危険なものです。

 しかし、患者さんは徘徊しているという意識がないため、危険性をわかってくれません。当人にとっては、徘徊ではなく理由があって目的地に行こうとしているだけなのです。


| 徘徊の対策

 徘徊を少しでも少なくしたり安全面を確保したりするためにも、できる限りの対策を行うようにしましょう。

・一緒に外出する

「ちょっと外に出てくる」と言われたら、「私もちょうど出かけるところでした」「一緒に散歩してもいいですか?」と聞いて、一人では外出させないようにしてください。毎回付き添うのは難しいかもしれませんが、一緒に外出するだけで行方不明になる確率は大きく減らせます。

・GPS機能を利用する

 GPS端末を首から下げておいたり靴につけたりすることで、徘徊しても位置情報を瞬時に把握することが可能です。徘徊という行動そのものを止めることはできませんが、行方不明になり警察に探してもらうことはなくなるでしょう。

・名前や連絡先を書いたものを身につけてもらう

 いつも身に着ける衣服や持ち物に名前や連絡先を記入しておくと、役立つことがあります。徘徊している方は夏なのに厚着だったり、冬なのにサンダルだったりするため、周りから見て違和感があることが多いものです。様子がおかしいと声をかけてくれる方も多いので、念のため連絡先などを記入しておきましょう。

・外出したことがすぐわかるようにする

 玄関にセンサーやドアベルをつけることで、外出したことがすぐにわかるようにしておくと徘徊を食い止められることがあります。ご本人が興味をもつものを玄関先に置いてくと、そちらに興味を取られている間に外出を止めることもできるでしょう。


| まとめ

 認知症になると、徘徊の症状が見られることがあります。ご本人は理由があって外出しようとしているだけなのですが、周りから見るとあてもなく歩き回っているように見えることがほとんどです。

 外出しようとしたら一緒に出かける、GPS端末を利用する、玄関にセンサーやドアベルをつけておくなどの対策をすることで、徘徊で行方不明になるのを防ぐことができます。

 徘徊そのものを止めるのはなかなか難しいことですので、外出先で迷子にならないような工夫を行うと安心感を得られるでしょう。


出典:警察庁生活安全局生活安全企画課 ”令 和 元 年 に お け る 行 方 不 明 者 の 状 況

文/岡本 妃香里
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